97歳暴走事故から一年 高齢者の運転免許 廃業覚悟で返納した人も 生活の質・尊厳を守れるかも重要に
福島県福島市で当時97歳の男が運転する軽自動車が暴走し、1人が死亡・4人がケガをした事故から1年...亡くなった女性の命日に合わせ、事故現場では多くの花が手向けられていた。
<夕方、大型商業施設の近くで>
2022年11月19日。事故は、当時97歳の男が運転する軽自動車が歩道に進入。100メートル以上に渡り歩道を走行し、40代の女性をはねた後、車3台に衝突した。この事故で女性1人が死亡、4人がケガをした。
<超高齢者が引き起こした事故>
裁判では、軽自動車を運転していた当時97歳の男がハンドル操作を誤り、ブレーキとアクセルを踏み間違えたことが明らかに。また、頻繁に物損事故を起こしていたことから、裁判長は免許返納を考えなかったかを男に尋ねた。男は「考えたことはありましたが、免許を返納すればどこにも行けない。ご飯を食べることができない」と語った。
<社会の在り方について言及>
言い渡された判決は禁錮3年・執行猶予5年。「事故の結果と過失は重大」としながらも、今後男が車を運転しないと誓っていること、90歳を超える年齢と体調が考慮された。裁判長は望まれる「社会の在り方」を判決文に込めた。
「自動車は利便性の高い乗り物である反面、危険なものだという基本的な事実に立ち返り、高齢者自らが運転せずとも不便を感じることなく生活を送ることができるような社会の構築が望まれる」
<みんなに迷惑...返納を決意した男性>
福島県桑折町の佐藤金市さん、88歳。1年前に、運転免許を返納をした。佐藤さんは「脳梗塞にかかって、免許の期間はまだ残っていたのだけど、もし事故起こしたら大変なことになるから。みんなに迷惑かけちゃうから、家族から免許返納したらいいんじゃないかと言われた」と話す。
<免許返納で廃業を決意>
モモ農家だった、佐藤さん。免許を返納したことでトラクターなども運転できなくなり、廃業を決めた。「今まで長年手入れしてきたモモの木を、チェーンソーを持ってバッタバッタと切り倒すっていうのは、自分が手足もがれるのと同じ気持ちでした」と語った。
<助成も 家族のサポートが不可欠>
免許を返納した人がタクシーを利用しやすくなるよう、助成制度を設けている桑折町。佐藤さんも助成制度を利用しているが、金銭的な負担はゼロではないため、外出は極端に減ったという。通院や生活用品の買い物は、家族のサポートが欠かせない。
<不便...それでも事故を起こすよりは>
佐藤さんは「人と会う機会も無くなるし、ほかに出かけるってことも出来なくなるので、うちにばっかりいると、足腰もだんだん弱ってきます。ただ、いつまでも免許証を使っているのはあんまり良いことではないと思います。出来れば、自分の体が自由なうちに、事故を起こす前に免許を返すっていうのは、当然良いことだと思います」と話す。
<福島県の自主返納 年間6000人>
高齢ドライバーが親子2人をはね死亡させた、東京・池袋の暴走事故が起きた2019年がピークとなっている福島県内の運転免許の自主返納者。その後は年間6000人前後で推移している。
<返納が生活の質・尊厳を失うことにも>
専門家は「無理に車を運転しなくていい」環境づくりを優先に「高齢者と運転免許」の関係を考えていくべきと指摘する。
交通政策を研究している福島大学・吉田樹准教授は「免許の返納は、実は高齢者の皆さんの生活の質とか尊厳を失ってしまう可能性もリスクも隣り合わせ。よく見極めていく必要がある。車の代わりになるような移動サービスが備わっているかどうか。早めに車以外を使った生活を、自身でも経験しておく・考えておくということがないと、どうしてもそのギャップが大きくなってしまう。そちらももう一つのアプローチとして必要になってくる」と話した。
運転免許を返納した後、家族だけでなく どう行政や地域で高齢者を支えていけるかが、高齢者の生活の質を保つためにも課題となる。警察では自分の運転・家族の運転に少しでも不安を感じた場合に相談できる専用ダイヤル「#8080」を設置している。