匠のこころ 吉川屋~「老舗」は常に新しい 185年の歴史に学ぶチャレンジ精神~
「ひとりひとりが『主役』『主人公』。その役割によって生き生きと働くことができる組織を目指す」と語る畠正樹社長。その言葉には、長い歴史を持つ老舗旅館を率いる経営者としての深い洞察と、従業員一人一人を大切にする温かな眼差しが感じられる。
福島県の名湯・飯坂温泉に佇む吉川屋は、創業185年を迎える老舗旅館だ。7代目となる畠正樹社長は、伝統を守りながらも新しい風を吹き込み、時代に合わせた変革を進めている。

「吉川屋イズム、吉川屋のスピリットというのは、チャレンジ精神かなと思っています」と畠社長は語る。「老舗は常に新しい」という言葉があり、時代時代に挑戦を続けてきた吉川屋の歴史そのものを表している。
創業以来、吉川屋は時代の変化に合わせて進化を続けてきた。高度経済成長期には団体旅行や宴会需要に対応し、大型化を進めた。現在では、会議利用や家族の記念日など、多様なニーズに応える施設として親しまれている。
畠社長は、この伝統あるチャレンジ精神を受け継ぎ、新たな挑戦を続けている。その一つが、日本文化と現代のポップカルチャーの融合だ。
「私自身が趣味で漫画を描くぐらい漫画が好きなので、漫画というのはやっぱり日本を代表する世界に誇れる文化だと思っています」と畠社長は熱く語る。「旅館というこの日本文化が詰まったものと、漫画やアニメ、ゲームとかそういったものがコラボレーションしていってもいいのではないかと考えています」
この発想から生まれたのが、「温泉むすめ」を活用した地域活性化プロジェクトだ。日本の伝統文化とポップカルチャーを融合させることで、若い世代や海外からの観光客にも魅力的な体験を提供している。

ココロとカラダにやさしい宿 - 現代人のニーズに応える新しいおもてなし
「旅館業は地域の『ハブ』の産業」と語る畠社長。地域経済の循環に重要な役割を果たしている。
吉川屋が目指すのは、「ココロとカラダにやさしい宿」だ。畠社長はこのコンセプトについて、次のように説明する。
「現代社会では、皆さん疲れた心と体を癒したいと感じています。本来の自分らしさを取り戻すためのサービスやおもてなし、地域の食材やストーリーを通じて、心にときめきやワクワクを取り戻していただきたいのです」
具体的な取り組みとして、発酵食品を積極的に取り入れている。「発酵食品は調和の象徴です。腸内環境を整えることで、体の中から美しく健康になっていくんです」と畠社長は説明する。また、地元福島産の食材を豊富に使用することで、「体の中から元気を吹き上がらせる」ことを目指している。
従業員一人一人が主役 - オーケストラの指揮者としての経営哲学
畠社長の経営哲学は、オーケストラの指揮者に例えられる。「社長も役割の1つに過ぎません。例えば接客なら現場のスタッフの方ができますし、料理だって私ができるわけではありません。一人一人が主役として、その役割を持って生き生きと働いていただく。そういった組織を作っていきたいのです」
この哲学は、コロナ禍という困難な時期にも貫かれた。「吉川屋の歴史として、社員を大事にするという社風があります。大変な時期があっても、1人もリストラすることなく乗り越えてきました」と畠社長は胸を張る。
未来を担う若者へのメッセージ - 失敗を恐れずチャレンジを
畠社長は、未来を担う若者たちにエールを送る。
「よく聞くのは、失敗するのが怖いという声です。でも、仕事というのは自分自身が成長していくための場なんです。失敗を恐れず、チャレンジしてほしい。失敗したということは1歩前進したということ。その積み重ねが人生経験を豊かにし、人生をより良いものにしていくのです」
吉川屋は、このような前向きな姿勢を持つ若者を求めている。185年の歴史を持つ老舗でありながら、常に新しいことにチャレンジし続ける。そんな環境で、自分の可能性を最大限に発揮したい人材を歓迎している。
畠社長が目指すのは、「働きがいのある社風」を次世代に繋いでいくこと。従業員一人一人が主役となり、その個性と能力を存分に発揮できる職場環境の構築に力を注いでいる。