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通算16回目の処理水放出開始<福島第一原発>

福島第一原子力発電所で、通算16回目の海洋放出が10月30日午前11時22分に開始された。
11月17日までの19日間で約7,800t(タンク約8基分)放出する計画となっている。


福島第一原発での処理水の海洋放出は2023年8月24日に開始され、これまで15回の放出で約11万8,000t(タンク約118基分)の処理水が放出された。
1号機から3号機の原子炉の中に残される事故で溶け落ちた核燃料が固まった"燃料デブリ"に、地下水や雨水などが触れることで発生する"汚染水"から大部分の放射性物質を取り除き、海水で薄めたうえで海に放出されている。


処理水の放出は、敷地を圧迫する1000基あまりのタンクを減らし、廃炉のためのスペースをあけることが大きな目的のひとつ。2025年10月16日の時点で、処理水等の貯蔵量は放出開始前から約5%減少している。貯蔵されている水の中には、放出の基準を満たせていない"処理途上水"も含まれている。
2025月2月からは、放出によってカラになった溶接型タンクの解体も始まっていて、9月3日にまとまったエリアとしては初めて「タンク12基分のエリア」の解体が完了。このエリアは3号機燃料デブリ取出し関連施設の建設場所として計画されている。東京電力は廃炉の進捗に伴い、必要な施設を建設するためのスペースを作る計画を立てながらタンクの解体を実施していきたいとしている。

放出開始以降、東京電力は第一原発周辺海域で海水のトリチウム濃度測定を実施していて、発電所から3km以内で700ベクレルを検出した場合には放出を停止することとしているが、これまでにこの指標に達したことはない。

一方、処理水の海洋放出に伴い、中国が日本産海産物の輸入を全面的に禁止したことなどから、ホタテやナマコを中心に取引の中止をはじめとする損害が発生。中国は2025年6月、約2年ぶりとなる輸入再開を発表したが、処理水の海洋放出以前から禁輸措置が取られていた福島を含む10都県からの輸入停止は継続される。
東京電力は、福島第一原子力発電所での処理水の海洋放出をめぐり、2025年9月24日時点で約870件・800億円の賠償支払いを完了している。


一方、処理水の"発生原因"となっている燃料デブリについても課題が残る。
福島第一原発では、事故後13年8か月が経過した2024年11月にようやく、2号機で初めてとなる燃料デブリの採取に成功。その後、2025年4月に2回目の採取を実施した。
格納容器につながる配管の中に、事故の熱で溶けたケーブルなどが固まって詰まっていたため、2回の採取とも、比較的狭い場所を通ることができる"釣り竿型"のロボットを使用。
一方で、78億円をかけて製作した大型の"ロボットアーム"は一部のケーブルが経年劣化で断線していたことが発覚。また、搭載するカメラの耐放射線性がメーカーの仕様を満たさず交換が必要になったとして、「2025年度後半」としていた次回のデブリ採取を「2026年度着手」と延期した。


燃料デブリの取り出しは"廃炉の最難関"とされている。
福島第一原発に残る燃料デブリは1号機に279t、2号機に237t、3号機に364tの計880tと推計されているが、2回の採取量を合わせても、残るデブリの10億分の1程度と、取り出し完了までの道は遠い。
2011年の事故で、2号機は水素爆発を起こしておらず1・3号機と比べて損傷が少ないとされることから先行的に試験的取り出しが行われているが、事故から14年が経過してまだ2回目。
1号機ではプールからの核燃料取出しのために建屋を覆うカバーの設置工事が進行中で、燃料デブリの取り出しについても内部調査が継続されている段階。

3号機での本格的な取出しの工程案をめぐっては、2025年7月に東京電力が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に示し、一定の技術的な成立性が確認されている。
「気中での取出し」「一部の燃料デブリは充填剤で固めてそれごと取り出す」という工法で格納容器の"横"と"上"からそれぞれ燃料デブリにアクセスする計画。放射性物質の飛散防止などのために設備や建屋を増設する必要があり、東京電力は「準備に12~15年かかる」としている。大規模取出しの開始は2037年度以降とされ、これまで掲げられていた目標である「2030年代初頭の着手」の達成は極めて困難な状況となった。

東京電力ホールディングスの2025年度第一四半期(4~6月)の連結決算では、燃料デブリの本格的な取出しの準備に向けた費用として9,030億円を計上し、この期間としては過去最大の8,576億円の赤字に転落している。
廃炉にかかる費用は約8兆円と見込まれているが、これを超えることは避けられないと見られている。


国と東京電力が掲げる福島第一原発の廃炉の完了は2051年。
タンク内のトリチウムがゼロになるのも2051年とされている。