「原発事故の負のイメージを医療という希望の光に」福島県立医大が放射性核種でのがん治験開始へ

福島県立医科大学は9月18日に福島県福島市にある同大で会見を開き、難治性前立腺がんの対象とした新たな治療法開発のための治験を開始すると発表した。
放射性核種であるアスタチン211を使用した新薬「211At-NpG-PSMA」の効果を確認するもので、年間1.2万人が死亡する前立腺がんの画期的な治療薬となることが期待されている。
福島県立医科大学の竹之下誠一理学長は会見で「東日本大震災と原発事故以来、放射線健康リスク科学という新たな学問分野を確立し、国際社会に貢献すべく復興の歩みを進めてきた。原発事故が引き起こした未曽有の災害を乗り越え、拡散した放射線の負のイメージを払拭すべく、放射線が持つ力を県民の命と健康を守る医療という希望の光に昇華させる」と語った。
県立医大によると、前立腺がんの治療をめぐっては「男性ホルモンを抑制しがんの増殖を抑えるホルモン療法」と「がん細胞を死滅させることで主要の増殖を抑える抗がん剤」による治療が一般的だが、難治性のがんに対して治療には限界があり、新薬の開発が正解中で進められている。
このなかで「がん細胞に放射性核種を近づけ、放射線をピンポイントで当てることでがん細胞を死滅させる」という放射性核種による治療薬の開発が進んでいて、日本でも「ルテチウム」という放射性核種を使った新薬について保険の承認に向けた手続きが進んでいる。
一方、この放射性核種を用いた治療薬については、放射線の飛程が長いと正常な細胞まで傷つけてしまう可能性があることや、放射性核種とがん細胞の接続が切れてしまうと放射性核種が体内をめぐり別の場所に蓄積されてしまう可能性も指摘されていて、この課題の解決が課題となっていた。
日本国内ではこの課題を解決すべく放射性核種の「アスタチン」を使い、「よりピンポイントで効果を発揮し」「がん細胞との接続が切れにくい」新薬の開発が進められている。
県立医大ではこの新薬について、これから治験患者を募り、2025年内にも治験を開始したい考え。
県立医大ではこれまで、国の復興財源などを活用しながらアスタチンによる新薬の研究を続けてきた。今後も外部資金などを活用しながら「福島の復興の象徴として、世界に誇る先端医療研究を推進していく決意」としている。