テレビ番組テレポートプラス
週休3日!?専門家が若手指導!?働き手不足を乗り切る切り札
記者の視点で社会や地域の話題を紹介する「記者プレ」 今回、石山美奈子記者が注目したのは深刻化する人手不足。人口が減る中では避けられないことだが、企業が事業を維持するためには人材確保が欠かせない。民間の信用調査会社が2022年に福島県内の500社余りから回答を得た調査では66.9%が、従業員が「不足している」と回答。一方で、6割の企業は「若手に教育が必要」としている。人材が不足して、若手の教育まで手が回らない...そんな状況を改善する取り組みが進められている。
◇【動画で見る】週休3日!?専門家が若手指導!?働き手不足を乗り切る切り札 魅力を高め就職希望者を増やす
マイスターによる若手指導
精密機械の部品加工を行う工場で行われた、若手技術者の研修。この日、指導するのは「MEISTER」の文字を背負った小林広孝さん。機械加工歴30年のベテランだ。
実習課題は、工作機械を使って見本と同じ形にアルミの塊を削るというもの。この会社で製造しているのは、医療や半導体に関わる精密機械の部品で、わずかなズレも許されない。
技術指導を行う専門家
精密な職人技を教える小林さんだが、実はこの会社の従業員ではない。厚生労働省から認定を受けた「ものづくりマイスター」で、高度な技能と実務経験を備え技術指導ができる専門家として、中小企業や工業高校などで指導を行っている。この日の指導も、企業からの依頼を受けてのものだ。
企業側の悩み
小林さんの派遣を依頼した「山製作所須賀川工場」は、50人ほどいる従業員の平均年齢が30代と若く、若手に「基礎を教える時間」を確保できないという課題を抱えていた。山製作所チーフマネージャーの秋庭隆雄さんは「エンジニア不足・オペレーターの不足というか、誰でもいい仕事ではないので、なかなか専任で付いて教えるというのはできない」と話す。
様々な分野のマイスター
小林さんは9年前にマイスターの認定を受け、これまでに4つの会社と2つの高校で技術指導を行ってきた。
福島県内では、のべ300人程のマイスターが「機械加工」だけでなく「造園」や「パン製造」など40を超える分野で技術を伝えている。
会社の垣根を越え育てる
会社の垣根を越えて若いエンジニアを育てたい!業界の未来を見据える小林さんの思いだ。「仕事をやるうえで、やっぱり技能の向上というのがあれば、仕事に対する思いっていうのが変わってくると思う。最近、この仕事を選ぶ若い人が少ない。教えたことが身について、それを仕事に活かしてくれれば自分としてはすごくうれしい。そういう面ではすごくやりがいがある」と小林さんはいう。
技術者増が人手不足の緩和に
会社の垣根を超える「マイスター」の存在はとても貴重だ。ただ、こういう制度を作らなければ、技術を継承できないという現実の厳しさも見えてくる。「人手不足で教育に手が回らない」という課題への対処は、技術を持つ人が増えて効率が上がれば人手不足の緩和にもつながるのではないか。
魅力を高めて就職希望者増・離職減へ
慢性的に人手が不足している介護業界。2023年度、福島県内では3万6000人余りの介護職員が必要とされているが、現実には3000人不足している。県内の高齢者の人口がピークに達すると予想される2030年には5500人不足する見通しで、さらに深刻な状況に陥ると見られている。
人材確保と定着へ新制度
福島県伊達市の特別養護老人ホーム「星風苑」 ここで働き始めて2年目の介護職員・八巻奈菜さんに、休日の過ごし方を聞いてみると「連休が取りやすくて、友達と予定を合わせて出かけたりしている」という。人手が不足していて「勤務時間が長い」といったイメージを持たれがちな介護業界で「連休が取りやすい」...その訳は?
週休3日制を導入
星風苑が2022年4月に本格導入した「週休3日制」は、介護職員40人を対象に、一日の勤務時間を8時間から10時間へ2時間増やして、週の休みを一日増やした。
人事院は、優秀な人材を確保するため2025年度から国家公務員が「週休3日制」を選択できるよう2023年8月に国会と内閣へ勧告した。
これに先駆けた星風苑の「週休3日制」は、介護職ならではの問題の解決にもつながっている。
夜勤明けは寝て一日が過ぎる
特別養護老人ホームでは、入所者に対応するため「夜勤」が必要。ただ、夜勤の終了時間と入所者の起床が重なって残業が発生しやすいほか、夜通しの勤務を終えて帰って寝ると夜勤明けの休日はもう終わってしまう。「疲れが取れない」「リフレッシュできない」という職員の声に対し、解決策の一つとして導入したのが「週休3日制」だった。
これによって増えたのは「自分の時間」だけではないようだ。第一子が生れたという介護職員は「休みが多いので家族との時間が多く持てるようになった」と話す。
人材確保競争への手立て
星風苑では「週休3日制」のほか、2023年8月からは外国人の採用を始めるなど「介護人材の確保競争」を乗り切ろうと手を尽くしている。鈴木忠彦施設長は「人口減少というところで、若手も含めて介護人材が少ないなというのは肌感では感じている。そこをどうやって変えていくかというのも、自分たちで動かないと変わっていかない。色々と新しいことにチャレンジするというのが星風苑で取り組んでいるところ」と話す。
週休3日が魅力に
人材を確保し定着させるためには「働きたい」「働き続けたい」と思える環境づくりが重要。星風苑によると求人票に「週休3日制」と書いていることで、応募者も増えているという。介護業界全体で人材が不足しているので、他の業界との競争でも魅力ある働き方を整えてPRするのは重要だと感じていると話していた。
福島県が2022年度に学生を対象に実施した調査によると、約半分が県外企業に就職していて、理由で最も多かったのは「福島に志望する企業が無いから」だった。働き方も含めて、魅力的な企業が増えると人材の確保や技術の継承につながり、福島の産業が活性化していくのではないだろうか。