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《検証》想定を超えた線状降水帯 避難情報の出し方は適切だったのか 経験を教訓にいわき市の防災
2023年に、福島県の浜通りを襲った線状降水帯。活発な雨雲が、浜通り南部から北部へと徐々に広がり、南部では1時間80ミリを超えるところもあった。福島県では初めてとなった発生情報に、自治体や住民は避難対応に困惑していた。
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死を覚悟するほどの被害
いわき市は市内全域に避難指示、河川流域には最も高い警戒レベルの「緊急安全確保」を発令。市内では10の河川が氾濫し、その周囲を中心に床上・床下浸水が発生。住宅だけで約1800、その他の施設や関連被害も1000棟に及ぶなど甚大な被害となった。
被害を受けた人は「物置の壁がバリバリとはがされてしまって、生きた心地しなかった。死ぬかと思った」と語る。また道路が寸断され孤立してしまった地区や断水など、わずか数時間の局所的な大雨が残した被害。1年が経っても、各地で復旧作業が進められている。
浮き彫りになった脆弱性
2023年の大雨で氾濫し、近くの住宅に浸水被害をもたらしたいわき市内郷内町の新川。川幅が狭くなり、すぐに水かさが増してしまう場所があることから、災害での弱さが浮き彫りとなった
福島県いわき建設事務所の小川航司主幹は「昔からの古い河川のままの状態でした。河川の断面が小さいと、橋脚等に流木等が引っ掛かり、さらにはそこにゴミが詰まってダムのようになって溢れてしまったと」と説明する。
小川主幹は「一日でも早く工事を進めて、大洪水に備える形はとっていきたい」と話し、今後は川幅を広げる工事に加え、所有者不明の橋を撤去し障害物が流れを止めないようにするなど、被害を最小限に抑える取り組みが計画されている。
夜に発令 避難指示
一方、行政の課題はハード面だけではない。福島県内で初めてとなる線状降水帯の発生情報に市の対応は困難を極めた。
いわき市災害対策課の猪狩雄二郎課長は「台風が若干それたが、雨が降り止まず。その後、急激に降水量が増えてきたという、今まで経験したことが無いような状況で、非常に大変な状況だった」と振り返る。
時系列でみる当時の避難情報
北上する台風が、すでに関東甲信地方で被害をもたらしていたことから、いわき市は午後3時に警戒レベル3にあたる「高齢者等避難」を発令。
その後、大雨・洪水警報の発表が相次ぎ市内全域に警戒レベル4の「避難指示」を発令したのは午後7時だった。猪狩課長は「しかしその段階ではすでに夜に入っており、視界も悪く、市内のいたる所で道路冠水などが起きてしまっていた。そこからの避難は難しいタイミングになってしまった」と話す。
雨はさらに強まり、避難指示発令の40分後に線状降水帯の発生情報。
避難所としていた体育館が浸水被害にあうなど、これまでの計画に狂いが生じるほどの大雨がいわき市を襲った。
警戒レベル5 伝え方に課題
最終的には、何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高いという「緊急安全確保」が、いわき市内すべての河川流域の地区へ出された。
いわき市災害対策課の猪狩課長は「もっと切迫感を持った、避難に繋がるようなわかりやすい表現が重要だと思った。わかりやすいメッセージを出すように改善に取り組んでいる」と話す。
経験をいかす 大規模防災訓練
いわき市はこの大雨による被害の教訓を踏まえた、大規模な防災訓練を実施。市民や市の職員など約1400人が参加し地区ごとに分けた避難指示の発令や、市長の緊急メッセージの発信方法などを確認した。
また、被害が大きかった地区では、住宅地に貯まった水を吐き出すための水路の整備事業などを前倒しで実施し、年々激甚化する災害への対策を急いでいる。
いわき市災害対策課の猪狩課長は「減災に努めるが、災害自体は無くすことができない。何よりも皆さん一人一人が、災害を自分事かということで日頃の備えを常に意識してもらえるように呼びかけている」と話す。
これまでの経験や、知識の蓄積を超える想定外の災害。その対応も、変わらざるを得ない局面を迎えている。