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被災地農業の担い手 20代が8割を占める農業法人が切り拓くスマート農業 震災から14年、故郷での農業を守る

津波と原発事故の被害を受けた福島県南相馬市小高区で、若者たちがスマート農業に取り組む農業法人がある。代表の佐藤良一さんが率いる「紅梅夢ファーム」は社員の8割が20代という異色の農業法人だ。日本一のスマート農業を目指す彼らの挑戦に迫る。
社員の8割が20代
福島県南相馬市小高区で、稲作を中心に144ヘクタールの農地を営む農業法人「紅梅夢(こうばいゆめ)ファーム」。代表を務めるのが、小高で農業を続ける佐藤良一さんだ。
「農家は、自分の持って生まれた職場だと思っていますので、今よりも明日と発展させるような感じで進めていきたいという思いが、ずっとこれまで」と佐藤さんは語る。
設立8年目を迎える「紅梅夢ファーム」の社員は現在14人。このうち8割を占めているのは20代で平均年齢は24歳だ。担い手不足が課題の農業で、若者が集まるのには理由があった。
日本一機器を使いこなす会社
「紅梅夢ファーム」が取り組むのが、ロボット技術などの先端技術を生かして生産性の向上を目指すスマート農業。
紅梅夢ファームには、人の操作がほとんどいらずに刈り取りができるロボットコンバインや、肥料の散布ができるドローンなど20台以上のスマート機器が導入されている。
代表の佐藤さんは「うちはおそらくは日本で一番スマート農業の機器を使いこなしている会社じゃないかなと思っています」と話す。
津波被害と原発事故
東日本大震災で、津波によって福島県内では最も多い1157人が亡くなった南相馬市沿岸部。押し寄せた8.6メートルを超える津波は、佐藤さんの田んぼや農業用ハウスを飲み込んだ。「こればかりは自然災害だから、何とも言えないって気持ちでいました。いずれにしろ震災プラス原子力災害がついて回ったものですから、何年かは動けないだろうっていうのは率直な考えでした」と佐藤さんは当時を振り返る。
津波被害だけではなく、農業の再開を阻んだのは原発事故だった。小高区全域に避難指示が出され、佐藤さんも福島県二本松市へ避難。それでも小高に通い続け、翌年にはコメの試験栽培を始めた。
避難指示が解除された翌年の2017年には、本格的な営農を目指して「紅梅夢ファーム」を設立。しかし、住民全員に避難指示が出された小高区で、即戦力の農業経験者を集めるのは簡単ではなかった。
佐藤さんは「小高へ戻ろうと思っていた人も、長期間の避難生活で新しいところに住み始まって新しい仕事が始まったと。いくら待っていても戻ってこない。中堅どころを高望みしてもしょうがないと。だったら思い切って、若い人材を育てていこう」と話す。
若い世代に伝わる思い
若い人材の確保のため、高校などで農業の魅力を伝える活動を積極的に行った佐藤さん。そして、若者が農業を始めやすくするために導入したのがスマート農業だった。
「私が震災直後から色んな復興のために動いているのを見ていた子たちが、ぜひ社長の所で働きたいと集まってくれた」と佐藤さんは話す。
「小高区で農業を続けたい」・・・佐藤さんの思いは、農家を目指す若者たちに届き始めている。
2025年に入社した石坂龍太郎さん(福島県南相馬市原町区出身)は、農業未経験ながらもスマート農業に魅力を感じ教師を辞めてこの世界に飛び込んだ。「生まれ育ったふるさとなので、南相馬市で作ったものを通して少しでも復興とか地元が盛り上がれるように、少しでも貢献したいと思っています」と語る。
入社2年目の今村翔さんは「一番は地元を盛り上げて、南相馬から農業を発信していって、将来的にも自分より若い世代たちに"農業はこういうものだよ"っていうのを教えていければと」と話すように、若い農業従事者が増えるような新しい農業のあり方を目指したいと考えている。
福島の被災地が抱える「風評被害」といった課題に向き合いながら、新しい農業従事者を育て小高の農業を守っていくことを佐藤さんは決意する。
「特にうちの社員は、みんな若い社員ばかりですので、この若い社員が一生懸命になって農業をやっている。日本の基幹産業でもある農業に魅力をもって、汗を流してやっている、そういったことをしっかりと世の中の皆さんに伝えていきたい」と佐藤さんはいう。
震災から14年、あの日失われた景色には、新しい芽が着実に育っていた。