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頑固な父から受け継いだ味 家族で営む食堂 父の死・被災...苦難を乗り越え「真っ当に、まじめに」
地域の心をつかんで50年あまり。福島県南相馬市には、きょうも変わらずに人々を出迎える食堂がある。頑固な父から受け継がれてきた味を、大切に育てていく家族の物語。
客も店も..."おいしい"が原動力
食欲をそそる音と香りが店内を満たすお昼の時間。次々とやってくる客で埋まっていく。8年通う人は「肉もがっつりしてますし、タレもご飯が進む感じ。本当はもうちょっとカロリー控えないといけないんですけど、ちょっと誘惑に負けて来ちゃう感じ」と話す。
客の胃袋をがっちりとつかむその人は、福島県南相馬市鹿島区にある「すずき食堂」二代目の鈴木良仁さん。「お客さんに来ていただいて、おいしいって言ってもらえるのが、また明日もがんばろうとやり続けて行こうという原動力」だと話す。
家族のピンチ 二代目の思い
大忙しの厨房の奥にあるのは、8年前に亡くなった父・良次さんの写真。「すずき食堂」は昭和43年に父・良次さんが精肉店を食堂に改装し始めた店。
高校卒業後に地元を離れ愛知県で働いていた良仁さんが、店に戻る覚悟を決めたのは「家族」のためだった。「親父の体調がよくないと、店がお休みがちだと。やはり自分を育ててもらったところだし、家族のピンチには助けないとということで」と良仁さんはいう。
順調に歩み始めた店を地震が襲う
昔からのイチオシは、こだわりの肉を特製のタレで焼き上げる「焼肉定食」。父が独学で編み出したメニューの数々を、父が亡くなった後も大切に守り続けている。その食堂を、2022年に危機が襲った。
2022年3月、福島県沖を震源とする地震が発生し、南相馬市と相馬市・新地町で「震度6強」を観測。1人が犠牲となり、100人を超えるケガ人が出たうえ、約4万棟の住宅や公共施設などが倒壊、損傷の被害を受けた。
「すずき食堂」も地震の影響で断水。食器のほとんどが割れ、約2週間の休業を余儀なくされた。
あの日の自分のように...
地震のあと、大きく変わったことが2つ。災害に対する備えをより強く意識するようになったこと、そして心強い味方が現れてくれたことだ。
「がむしゃらに頑張るしかない。帰ってきて2年、まだまだなので親父の背中を追っかけて頑張りたいと」...宮城県で働いていた息子の仁成さんが、あの日の自分のように「父の背中」を追いかけて戻ってきてくれた。
良仁さんは「息子が手伝ってくれるとなると、最初は頼りないって思っていましたけど、最近やっと、まだまだですけど頼れるなという感じにはなってきました」と話す。
家族ともに守り続ける
孫の裡斗くんも生まれ、新しい家族とともに店を守り続ける覚悟だ。
「多分死ぬまで続けると思うので、それまで身体を大事にして、家族みんな仲良くやっていければいいかな。まっとうに、真面目にやっていこうそれを常に考えています」と良仁さんは話した。
「まっとうに、真面目に」...幾度の苦難を乗り越えて、家族がつなぐ50年以上変わらない味が、きょうも訪れる人を出迎える。