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13年の歴史に幕を閉じた入浴施設「郡山湯処まねきの湯」 オープンから支えた支配人・松本明子さん

人々の憩いの場だった福島県郡山市の入浴施設が、惜しまれつつ閉店した。そこは、"銭湯"の枠を超えて愛され続けた特別な場所だった。
震災翌年に開業
2025年9月30日、午後8時すぎ。郡山駅東ショッピングセンターにあった「郡山湯処まねきの湯」は、13年余りの歴史に幕を閉じた。
まねきの湯がオープンしたのは、震災翌年の2012年6月。当時、郡山市内で避難生活を送る人たちや市民を無料で招待するなど、地域に根差す入浴施設として賑わった。
支配人の松本明子さんは、オープン当時からまねきの湯の運営を切り盛りしてきた。"駅近"の天然温泉で、10種類の風呂を楽しめるまねきの湯。オープンの1年後に始まったのが福島県内ではまだ珍しかった、サウナ室でのロウリュウだ。
「新しいもの好きなので、それでロウリュウをやってみた。そしたら思いのほか、お客様が増えて気付いたら今ではロウリュウがないと、うちの店やっていけないくらいになった」と松本さんはいう。
多くの常連客に惜しまれ
平日は一日平均550人、土日も1000人以上の利用客で賑わった「まねきの湯」。
しかし2025年に入り、運営会社による事業計画の見直しで9月いっぱいでの閉店が決まった。
松本さんは「本当に今はやらなきゃいけないことの方がいっぱいで、ちょっと追われている感はある。館内歩くと、客に止められる『どうするの、これから?』みたいな。それがきついかな、一番」と語る。
胸に込み上げる寂しさ。それでも精一杯の笑顔で応える。
音楽で盛り上げる
閉店を2日後に控えたこの日、ラストライブが開かれた。全国で活動するミュージシャンを呼び、音楽で郡山を盛り上げようという松本さんのアイディアで、毎月開かれていた。
ラストステージを務めたのは、人気バンドの「ザ・マスミサイル」。10年以上前からまねきの湯のステージに立ち続け、この日も全国からファンが駆け付けた。
ザ・マスミサイルのボーカル・高木さんは「我々がライブハウス以外に、最高の場所まだまだあるぞと思えたのはとても大きくて、その場所を提供してくれたまねきの湯には感謝しかない」と話す。
傍らでライブを見守った松本さんは涙ぐみ「本当に色々なことを思い出した時間だった」と語った。
愛知県から来たファンは「まねきの湯に来るのは5回目とかかな、全部マスミサイルのイベントで来ています」と話し、また京都から来たファンは「閉店は悲しい。今でも泣きそう」という。さらに東京からきたファンは「ここで色々なアーティストを知って、ファン同士の出会いの場というかハブになっていた場所だった。ぼくたちの"竜宮城"みたいな所がなくなっちゃうのは非常に寂しい」と語った。
心のよりどころ
迎えた最終日。この日、福島県の内外から詰めかけた利用客からは、「俺ここ長いからね、感謝しかない。何より人、ここのスタッフは本当に。自分はどれだけ救われたか分からない」「すごく寂しいので最後だと思ってきょうは来た」「子どもいると忙しかったりするので、これからどうやって息抜きしようかな」「心のよりどころでした、毎日ですから。安くて一番居心地が良かった」などの閉店を惜しむ声が相次いだ。
閉店の1時間以上前から入り口に立ち、利用客を見送った松本さん。一人一人に感謝の気持ちを伝えた。
「まねきの湯は、自分の中の生活の一部だった気がします。本当にありがとうございました」
常連客に惜しまれつつ閉店となったまねきの湯は、今後は別の運営会社が事業を引き継ぎ、同じ場所に新たな入浴施設がオープンする予定だという。