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トム・クルーズも認めたカメラレンズは"メイドイン会津" 会津人の気質と人柄が可能にした最高峰の技術

映画などの撮影に使われるシネレンズ。プロが使用するものだと、高いもので数百万円するとても高価なものだが、あのトム・クルーズも認めたシネレンズが福島県内で作られている。世界が注目するレンズ作りのこだわりを取材した。
9割以上を占める地元従業員
福島県磐梯町にあるシグマ会津工場。シグマは神奈川県川崎市に本社を置くレンズメーカーだが、加工から出荷までほぼすべてをこの工場が担っている。約1650人いる従業員の9割以上を占めるのが会津地域の人たち。
会津人の人柄や気質がカメラやレンズなどの精密なモノづくりに向いているという。シグマ会津工場長の松本伝寿(まつもとでんじゅ)さんは「忍耐強く一つのことをやり遂げる。あとは本当にまじめで規律正しいというところが魅力」と語る。
一眼レフレンズからシネレンズへ
元々は一眼レフレンズを扱っていたシグマだが、市場の拡大を目指すなかで狙いを定めたのが映画撮影に使われるシネレンズだった。
松本さんは「普通のカメラの光感レンズだけではなくて、他の産業にも参入したいという希望もあった。その中でも映画で使われる撮影用のレンズというのは、最高峰の製品になる」と説明する。
大ヒット映画の撮影に採用
最高峰の技術が求められるシネレンズは、主にドイツやフランスの大手メーカーがほとんどのシェアを占めていて、シグマは最後発での参入だった。受け入れられるか不安もあるなか、既存の一眼レフをベースに2016年に発表したシネレンズが、とある映画をきっかけに注目を浴びるようになる。
「一番大きなきっかけは、皆さんご存じのトップガンマーヴェリック。映画のメイン機材として当社のシネマ用のレンズを採用していただけた」と松本さんは語る。
画質やコンパクトさ、さらに他の製品と比較して安価だったことなどから撮影のメイン機材に選ばれ、コックピット内の撮影以外、ほぼすべての場面で使用された。
松本さんは「驚きと興奮とうれしさと、ものすごく入り乱れたとっても幸せな日でした」と振り返る。
高い技術から生まれる最高峰のレンズ
ハリウッドにも認められたシグマは2025年8月に新たなシネレンズを発売。フレームにも刻まれたその名は「AIZU PRIME」。
新たなシネレンズの特徴の1つが均一性。焦点距離に応じてつくられるレンズの表面は理想的な形状に仕上げる必要があるため、その誤差は3ミクロン以下、髪の毛の26分の1相当の基準が求められているが、シグマの製品はさらにその上の精密さを誇っている。
光学性能の改造などを担当する生産技術部の石井雄太さんは「10分の1ミクロンよりさらに小さい誤差で、かなり精度がいい。こういうレンズがシネマのレンズに求められている」と語る。
水に混ぜる研磨剤の濃度やヤスリをあてる角度、圧力などを微調整しながら磨き上げるまさに職人技だ。石井さんは「どのレンズを使っても、同じような見え方にしたいというところで光学の調整はかなりシビアなところが要求されている。かなり作りこみが必要というところが、他のレンズと違って苦労した」と話した。
使い勝手も追及
こだわりは光学性能だけではない。爆破シーンなど過酷な撮影環境にも耐えられるようにパーツの形状、重さ操作性にもこだわり何度もブラッシュアップを重ねてきた。
機構関係のパーツの管理や試作、不具合の解決量産などを担当する生産技術部の木田悠太朗さんは「操作リング自体は軽くできるけど、内部の連動しているパーツというのはガタがある状態だと光学性能に影響が出てくるので、そこの部分は詰めながら外側は軽くというバランスを取るのが難しかった」と語る。
会津での操業開始から50年以上。会津の誇りをかけた一人一人の経験と技術が世界基準のモノづくりにつながっている。工場長の松本さんは「粘り強くひとつのことをやり遂げるとか、精緻にものを作るためにこだわりぬくといった気質がありますので、そういった会津の土地で職人たちが本当に精緻なものを作っているというところをアピールしたい」と話す。
会津から世界へ。メイドイン会津のシネレンズが世界中の映画シーンを映し始めている。