震災・原発事故後、増えすぎた野生動物 故郷の農業を守るため猟師に 葛藤と祈り...命と向き合う
東日本大震災後、福島で増え続け野生動物。野生動物は本来、人の手で個体数が管理されている。数が増えすぎると、農作物への被害や生態系の変化、さらには人への攻撃など様々な問題が起きるためだ。
福島県では、イノシシは年間2万5000頭以上の捕獲を目標にしている。
その役割を担うのが猟師だ。震災後、原発事故の影響で人の手が届かなくなった地域では、野生動物の生息域が広がった。今も続くふるさとの現実と向き合うため"ある生き方"を選んだ男性がいる。
■コメ農家だった男性
『名前も顔も出すことは出来ない』・・・それが取材の条件だった。
コメ農家だった男性の田んぼがあった場所は、原発事故で避難区域に設定された。
東日本大震災での福島第一原発事故で、広い範囲で避難区域が設定され約16万5000人が福島県の内外に避難を余儀なくされた。
人がいなくなった街で増え続けた野生動物。再開した田畑を食い荒らされ収穫の喜びも奪われた。
「農家はいつごろ収穫できるか楽しみにしている。だから、それがもうできないというのは、やっぱり心抉られる状態」
男性はふるさとの農業を守るために、廃農した。
■故郷の農業を守るため猟師に
農家を辞め始めたのは猟師。男性の仕掛けた罠には年間150頭の野生動物が捕獲される。「可哀想に、でもしょうがないな。土地の形変わっちゃうから、やむを得ない」
「どうしたものかなって考えるのは毎回ですよ。やりたくないですよ、本音としては。だって結局とどめさす相手も生き物なので、別に好きで生まれた訳でもない」
駆除したイノシシに向かって手を合わせ、男性はつぶやいた・・・「ごめんな」
「人間が檻の中で生活するわけにはいかない。だから究極の選択でやむを得ず駆除しているだけの話」
■弔いにならない駆除
男性の葛藤は命を奪った後も続いている。
福島県内の野生動物は、放射能により出荷制限・接種制限がかけられ食材として活用が出来ない。(※一部地域を除き)
震災後に増加した野生動物を適正に処分するためつくられた「有害鳥獣焼却施設」へと運ぶ。
「命を奪っているわけなので、本来は家畜と同じく食料にしてもらった方がまだマシだけど、残念ながらここの地区はそうはいかない。獣でもおいしく食べられるのであれば、弔いにもなるのではないか」
■誰かがやらなくては
男性の役割は、必ずしも理解されるものではない。行政には野生動物を駆除しないことを求める声が寄せられている。
「全然仕事にならないくらいクレームの電話がいっていたわけで、あえて顔や名前をおおっぴらにしないのは、そういうこと。でもね、理解してもらえないのはとても残念だよ」
それでもかつて命を育んできた手で、引き金を引いている。
「故郷を捨てる気はない。元に戻れなくなってしまったけど、でも勇気を出して戻ってきて生活している人もいる。その人たちのために、助け舟ではないけども、少しためになることやれればいいなって。でもやっぱり、誰かはやらないといけない」
猟師たちの祈りの先に、この土地の暮らしが続いている。
















